はじめて君に裏切られたのはダービーのときだった。

勝ち馬と3着のマチカネアカツキの間に飛び込んできて的中の邪魔をした君。

競馬がよく分かってなかった僕に衝撃を与えてくれた。

その秋、サラブレッドの晴れ舞台の長丁場、菊花賞をスルーして秋の天皇賞に来たキミを

僕は信用しなかった。ちょっとした嫌悪もあった。

サラブレッドの王道を無視して大人の喧嘩にしゃしゃり出て来るな！

本音は、テイエムオーシャンやナリタトップロードの邪魔をしてほしくなかっただけ。

君は3歳の分際で古馬を押さえて我が物顔で先頭でゴールを駆け抜けた。

しかも、ナリタトップロードの悲願の戴冠の邪魔をしたね。

中山で行われたジャパンカップ。

さすがにキミを無視できなくなって僕は少しだけ心を許した。

△印を打ったんだ。

何を思ったか、君は出遅れた。

ファルブラヴ、サラファンの2頭の外国馬に先着を許した。

2002年有馬記念。僕の好きな馬がたくさん出てきた。

だから君を支持なんて出来なかった。

あのダービー馬が勝利の咆哮を上げるのを楽しみにしていた。

だけど、GIホース9頭を敵に回して誘惑の舞を踊ったタップダンスシチー。

その幻惑をかわし、先頭で勝利の美酒を味わったのはまたしても君だった。

…分かったよ。来年の緒戦は君を信じるよ。

他の馬が汗流して頑張っているのに、君はのうのうと休みを堪能して、宝塚記念にひょっこり現れた。

関西で初めて直で見る君は王者の風格を漂わせていて立派に見えた。

強いものは強いと僕もようやく分かった。だから◎を打った。

一度は先頭に立った君。

でも、葦毛の菊花賞馬に先頭を明け渡し、君は馬群に沈んでいった。

デビュー以来の初めて4着以下の着順だった。

それは、僕に「君は終わった」と思わせるに十分な醜態だった。

トライアルを使わずに出てきた府中2,000mの天皇賞。

来ないと思わせる理由は十二分にあった。

一番人気の勝てないレース。

府中2,000mで絶対的不利な大外8枠18番。

休み明け。

絶対的自信を持って無印にした。

ローエングリンの絶対的逃げに絶望を知るがいい。

レース後、絶望を知ったのは僕だった。

僕の信じた「あいつ」は暴走し

君はそつない走りでレコードのおまけまでつけて優勝しやがった。

…終わってなかったのか？君は。

2003年ジャパンカップでは○を打った。

◎は外国の馬に打ったから、日本の馬で一番強いと僕は判断した。

君は馬場に気を取られ、実力を発揮できなかった。

…内ラチ沿いを踊りながら逃げる、タップダンスシチー。

影も踏めずに昨年と同じ3着に敗れた君。

そして、僕は一世一代の決意を迫られた。

有馬記念で君を支持するのか？しないのか？

1ヶ月考え抜いた。

最初は来ると思った。

でも、昨年より何十倍も強くなったタップダンスシチー。

有馬で期待されながら3歳馬に引導を渡された、(僕の応援した)古馬たち。

レースの直後に行われる引退式。

タイキシャトルと同じ、負けフラグ。

…よくも今まで予想の逆に逆にばかり来やがって！

君は負けるべきなんだ。負ける運命なんだ！

新たな時代に引導を渡されるべきなんだ！

僕は考えることを放棄した。

自分の感情だけで君を切ったんだ。

最後に笑うのは自分だと思った。

しかし、レースが始まるや否や暴走したのはまたしても自分の本命馬。

4コーナーを回って力尽きる本命馬を尻目に君は悠々と上がってきた。

そして、その有り余る力を誇示した。

「貴様の負けだ！」

そう言わんばかりの9馬身差。

僕の馬券は、紙屑と化した。

しかし、有馬が終わった後、何ともいえない気分になった。

今までは憎しみしか残らなかったのに。

「また、やられちゃったな…」

パーフェクトに僕の予想に背いてきた君は

少なくとも、僕の中で忘れられない存在になっていた。

君は今回のレースを最後に引退する。

もう、リベンジのチャンスは来ない。

でも、君も頑張って走ってきたんだ。

今は一言だけ言わせてもらいたい。

「お疲れ様。」

そして、君がターフを去った来年からは

(自分にとって)第二の君を作らないためにも

僕ももう少し予想を頑張ろうと思います。

種牡馬としての活躍にも期待します。それじゃ、お元気で。

2003年12月30日　Koga

拝啓 シンボリクリスエス様

有馬記念：Koga推奨馬成績

▲：ツルマルボーイ：4着。

○：タップダンスシチー：8着。

△：アグネスデジタル：9着。

×：ファストタテヤマ：10着。

◎：ザッツザプレンティ：11着。

-GI予想2003・有馬記念・結果-