第二百三十一段〜第二百四十段

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第二百三十一段 「コガー・ポッターとアズカバンの囚人 第5幕」

第四幕(第二百二十九段)

カメンダー64号:「ヴ、ヴヴヴヴヴヴッ!ブラックウウ!見つけた!脱獄囚のキサマにはとっておきの技を見せてやるヴ!行くぞ同志!キッス・ワールド!」

カメンダー128号・256号・512号・1024号:「了解ヴ!ヴヴヴヴヴ!!」

プリウス・ブラック:「これは!邪悪な気が私の周りに!身動きが取れない!」

カメンダー64号:「普通のキスは相手を生ける屍にするだけだが、この合同技『キッス・ワールド』は魂の生きてきた時間を奪い、永久に子供にしてしまう。終わりだヴ!とどめだヴ!」

プリウス・ブラック:「うわあああああ!ありえないぃい!」

あ、オッサン!

プリウス・ブラック:「…おぎゃあ。買って買って!ポ●モンのガチャ●チャ買ってくれなきゃやだ〜!それともピカ●ュウのぬいぐるみでハッスルハッスル〜♪」

魂を吸われた上に子供になってやがる。まさか、これは『キッス』と『キッズ』をかけた…

カメンダー64号:「ヴヴ、ガキにこの技の秘密を破られたヴ!生かしてはおけないヴ!」

知るかー!

カメンダー256号:「かわいそうだが、君にも我々の『キッス・ワールド』で…」

面倒だから、数秒でカタつけてやる。ルビーン先生、使わせてもらうよ。エクスペクト・パトローナム。

カメンダー64号・128号・256号・512号・1024号:「ヴウウヴヴ!!強い強い強い強い強い!消える消える消える消える消えるー!畜生畜生畜生畜生畜生!でもでもでもでもでも、ブラックの野郎は始末したから満足して立ち往生ー!」

消えたか。これで終わりだな。




オーマイハニー:「コガー、無事だった?」

僕を誰だと思ってるんだよ。あの変な集団は吹っ飛ばしたぜ。

オーマイハニー:「さすがコガーね。で、この子供は?」

あのプリウス・ブラックだよ。子供にされちまった。

プリウス・ブラック:「…デカ●ンジャーロボ買ってよ〜!」

オーマイハニー:「これ、どうしようもないの…?」

ルビーン:「何ということだビーン。これでは元に戻るすべは無いビーン。おお、わが親友・ブラックよ…ワ、ワオーン!ワオーン!」

オーマイハニー:「きゃあ!ショックでルビーン先生が狼に!」

プリウス・ブラック:「狼男なんて怖くない!光の使者・プリウス・ブラックが月に代わってお仕置きよ!」

おのれはだまっとれ!それにしても、狼男だったのかルビーン先生は。

トラブリュー:「ククク、ここまで筋書き通りだチュー。」

うわあ、この期に及んでまた変なヤツが出てきた!

オーマイハニー:「あのネズミ男、追ってきたのね。コガー、アイツが今回の事件の元凶よ。」

ルビーン:「ワオーン!ワオーン!」

第六幕(第二百三十二段)に続く


第二百三十二段 「コガー・ポッターとアズカバンの囚人 第6幕」

第五幕(第二百三十一段)

トラブリュー:「ブラックは子供になったチュー。ルビーンは狼になったチュー。そしてハイブリッドはオレ様がネズミにしてやったんだチュー。」

ハイブリッドをネズミに?…この野郎!変身魔法・イヒ。

トラブリュー:「ん?チュー!チュチュチュ、チュー!」

さて、ネズミに戻してやったぞ(笑)。こんなのが今回の元凶だったとは。

ハイブリッド:「おお、元に戻れたわい。さて、このトラブリューとかいうヤツ、どうしてくれよう。」

ルビーン:「ワ、ワオーン!グオオオッ!」

トラブリュー:「チュ、アチュ、アチュ、チュー!」

オーマイハニー:「ルビーン先生の吐いた火の玉がトラブリューに命中…哀れな最期ね。」

ハイブリッド:「元凶は息絶えたが、今の状況は打開しようが無い。プリウス・ブラックはもう元に戻せないし、ルビーンもこの勢いだと―――」

ルビーン:「ワ…ワオォオオオン!!」

うわ、巨大化しやがった…。建物が壊れる!このままではポグワーツが破壊されてしまうぞ。

ルビーン:「ワオオオォオオオオ!!ゴオオオオ!

ハイブリッド:「うわああぁ…ポグワーツが火の海に…崩れ落ちていく!ゴジラだ…誰だ有害物質を海に投げ捨てたのは…ジャージャン、ジャージャン、ジャージャンジャージャンジャージャンジャージャンジャジャジャジャジャジャジャジャ…」

オーマイハニー:「それ、『ジョーズ』じゃないの?ていうか、ハイブリッド、錯乱してる。非常事態だわ!こうなったら…」

やるしかないか。とっておきの魔法で。




あれ、ここは?今の間は何?

オーマイハニー:「この『タイム・ターナー(逆転時計)』で時間を1時間前に戻したのよ。講義の掛け持ちをするためにダブルドア校長から借りたんだけど…今の状況を変えるには過去の元凶を絶つしかない。」

それにはどうしたら…

オーマイハニー:「ブラックを助けるのよ。彼が壊れなければルビーン先生も狼にならなかった(と思う)し。」

さすがにやるしかないか。過去の僕とブラックが出会う前にカメンダーの軍団を斃すぞ。そうと決まれば先回りだな。しかし場所を探すのは…

オーマイハニー:「面倒だって?でも、大丈夫。ハイブリッドの部屋からどさくさにまぎれて盗んできた『忍びの地図』があれば…ポグワーツ魔法学校の最上階、そこに奴らはいる。」

ならば話は早い。速攻でカタつけてやるぜ。

カメンダー64号:「ヴ、ヴヴヴヴヴヴッ!ブラックのヤツどこに…どこに行ったのやら。」

カメンダー128号:「ヴ、ヴヴヴヴヴヴッ!反応あった!2階の…の部屋にヤツがいる!」

カメンダー256号:「何かガキが一匹いるみたいですヴヴヴ!」

カメンダー512号:「ヴ!四七歩!」

カメンダー1024号:「ヴ、ヴヴヴヴヴヴッ!それ、二歩!512号の反則負け!」

カメンダー64号:「どさくさにまぎれて将棋で遊んでんじゃねえよ!行くぞ!ブラックを捕獲してやるヴ!」

エクスペクト・パトローナム!

カメンダー64号・128号・256号・512号・1024号:「ヴウウヴヴ!!不意打ち?ヴヴヴヴヴ!まだ…ブラックを…ちくしょおお!」

これでOK?

オーマイハニー:「うん、後は時計を使った時間になるまでに、時計を使った部屋―――コガーの部屋に戻るだけ。ここからなら20分もあれば行けるわね。そうしないと、『タイムパラドックス』が発生しちゃうから、急ぐわよ。」

あ、今までの展開はほとんど自室で起こったことだったんだな…とにかく急ぐか。

最終幕(第二百三十三段)に続く


第二百三十三段 「コガー・ポッターとアズカバンの囚人 最終幕」

第六幕(第二百三十二段)

オーマイハニー:「急がなきゃ…!コガーの部屋はこっちだよね。あ、いけない!」

どうしたんだよ。

オーマイハニー:「目の前からドンが歩いてくるわ。もう怪我が治ったのね。回り道するわよ。」

どういうことだ?そっちの通路じゃ間に合わないぞ!

オーマイハニー:「過去の世界で過去の人物と出会うと『タイムパラドックス』が発生しちゃうのよ!」

え?じゃ、さっきのカメンダー一網打尽にしたのは…

オーマイハニー:「相手に見つからなければいいのよ。あっ!」

ペトリフィカス・トタルス!

オーマイハニー:「やっぱりドンを石にしちゃった!強行すぎ…いや、ごめんドン!あとで必ず元に戻すからー!」




ほら、着いたぞ。

オーマイハニー:「これで良かったのかな?ま、いいか。私にもコガーの怠け癖がうつったっぽい。」

ルビーン:「あれ、コガー・ポッターオーマイハニー。さっきまで元気だったのに随分息を切らしてるビーン。」

プリウス・ブラック:「ありえない、が、ありえないとも言い切れない。もしかして…」

トラブリュー:「くそ、作戦失敗でチュー。逃げるでチュー!」

あ、(過去を変えたおかげで)こいつは生きてるのか。変身魔法・イヒ

トラブリュー:「チュー!

紫色の汁になって消えたか。これで本当に終わりかな。

ハイブリッド:「おお、元に戻れた。礼を言うぞコガー・ポッター。」

ドン・ウィズリー:「おーい、コガー・ポッターオーマイハニー!無事だったんだね!」

おお、悪の元凶は倒したぞ。待てよ。ドンはさっき石に変えたのに元に戻ったということは…

ダブルドア校長:「これはこれはごきげんよう、コガー・ポッター君。」

出たー!な、何でしょう?

ダブルドア校長:「今回の活躍はいつにも増して見事じゃった。アズカバン監獄の要請ではあったが、危険なカメンダーによる警護を許したのはワシのミスじゃ。」

じゃあ、ドンを石にしたことは…

ダブルドア校長:「それは別じゃ。同じ生徒に対して石化魔法を使うなと言っとるじゃろうが!そんなコガー・ポッターにペトリフィカス・トタルス!

あれには事情が…うわあああ!




ルビーン:「そう、私とプリウスハイブリッド、そしてトラブリューは友達同士だったビーン。」

プリウス・ブラック:「しかし、あるときトラブリューが悪の化身ダメデモートと協力とか、ありえない道に走っていったから俺がトラブリューをネズミに変えてやったのよ。その後、トラブリューダメデモートと結託、自分の姿を自由に変えられる術を学び、俺の姿を借りて犯罪を犯した。で、俺は捕まった。こう話していると、ありえないほど推理小説の解決編っぽくなってきたからこれくらいにしておこう。」

ルビーン:「表向きにはプリウスが悪者、ということで進めていたけど、これは敵を油断させる手段なんだビーン。」

オーマイハニー:「じゃ、プリウスを追ってきたカメンダーはどう説明するの?」

プリウス・ブラック:「それは俺の中ではありえない。さすがはアズカバン監獄。つまりは計算外…」

ドン・ウィズリー:「あの…アイツ等のせいで僕は今回散々な目に遭ったんだよ!責任取ってくれよ!」

プリウス・ブラック:「それは叶わない。俺は世間には犯罪者で名が通ってるからこれから逃避行さ。さらば!」




で、秘密が明らかになったのはいいけど、僕はいつ元に戻れるんですか?

- コガー・ポッターとアズカバンの囚人・完 -

コガー・ポッターとアズカバンの囚人・第一幕(第二百二十六段)


コガー・ポッターと賢者の石・第一幕(第百五十七段)

コガー・ポッターと秘密の部屋・第一幕(第百七十二段)


第二百三十四段 「清涼菓子、ラムネの味わい方」

清涼菓子は、カネボウフーズの「FRISK」に代表される、固形のラムネを一回り小さくした菓子のこと。会社で眠気覚まし代わりに口にすることが多いです。僕はこの清涼菓子を口にするとき、「バリバリかじって」食べていましたが、先日この「常識」が覆されることになりました。

ある日いつもと同じように清涼菓子を「かじって」食べていたら、それを知人に不思議がられて

「清涼菓子って『かじって』食べるものですか?飴のように『舐めてじっくりと味わう』ものでしょう?」

と一言。一瞬、何を言ってるんだ、清涼菓子ってラムネのように「かじって」食べるのが常識だろ?と思っていましたが、その「常識」は、ラムネを食べるときの習慣で自分が勝手に作った幻想。職場でも清涼菓子を口にしている人はいますが、バリバリと音を立てている(のが分かる)人は一人もいません。思わぬところから出てきた自分の非常識。しかし、根付いた常識を覆すのには時間がかかります。すかさず言い訳。

「ああ、でもラムネとかは普通『かじって』食べるよな。いや、清涼菓子ってラムネに似てるからさ、ついバリバリと…」

しかし、その知人は

「ラムネも『かじって』食べるんですか?僕は飴のように『舐めて』味わってますけど。」

嘘…?その知人曰く、ラムネを「かじって」食べることを「贅沢食い」と言うらしいです。知人の地元ではほとんどの人が「ラムネ菓子は飴のように『舐めて』味わっている」との話で、その事実にカルチャーショックを受けましたが、その後考え直して―――



今では、清涼菓子は「舐めて」味わうようにしています。「かじる」時よりも消費ペースは遅くなり、その割に「眠気覚まし」の効果は上がっているので、非常に有益なアドバイスとして受け止めることとしました。しかし清涼菓子に比べ、遥かに長い期間「かじって」食べていたラムネについては納得がいきません。しかし、「舐めて」味わうことが全く不自然に思えないのも事実。いや、むしろその方が正しい味わい方だったのではないかと思わせるような…どうしようか、しばらく悩むことになりそうです。


第二百三十五段 「ケーブル」

ずっとずっと、不思議で仕方ない疑問があります。

電気製品のケーブル。知らない間にこんがらがってたり、結び目ができていたりします。(ケーブルをぞんざいに扱ったがためにこうなるのですが)見てない間にこんがらがりすぎとちゃうか?―――こんな疑問をずっと持っています。

カバンの中に入れているウォークマンのイヤホンのケーブル。今カバンから取り出してみたら「たまたま」そんなにこんがらがってなかったですが、普段は、線がこんがらがっててほどく作業が必要なんです。ほどくのに3分以上かかることもあります(そこまではかかりません)。昼メシのカップラーメンが食べられます。

ビデオ入力の接続ケーブルとかもそうです。あの、赤、黄、白の3色の端子があるやつです。これは結び目が1個〜2個できている程度ですが、ずっと放置している(と思い込んでる)だけなのにどうして結び目ができているんだろうと疑問に思ったりしています。

パソコン用のヘッドホンは、やや近代的な、ケーブルが巻き取り式になっているものです。スイッチを入れるとメジャーのごとくシュルシュルシュルシュル…とケーブルが巻き取られます。いつの間にか結び目ができているせいで途中で巻取りが止まります。ひどいときには結び目が5〜6個できていることもあります。思い切り叫ばせてください。(この便利なヘッドホンですが、コードを巻き取るのが面倒なときにはそのまま放置しています。だからこんがらがるのも無理は無いのですが)こんがらがりすぎやろ!

性懲りもなくこんがらがるケーブル。50%は自分が悪いとしても、残りの50%はケーブルが勝手にこんがらがってるんです(誇張表現)!勝手にケーブルが動いているんです(んなわけない)!ケーブルは生きているんです(何を言い出すか)!僕らの見ていないところで、ほら(もうどうにも止まらない…)



…でも、知らない間にケーブルがこんがらがってたって経験、ありませんか(涙目)?


第二百三十六段 「消えるマジック」

さて、今からマジックをお見せします。まずはお約束とも言える『消えるマジック』から。そこの田中さん

:「人に勝手に苗字つけないでください。僕の名前は後藤です!いや別にどうでもいいんですが。」

では後藤さん。この箱の中に入ってください。

後藤さん:「はい。で、何をするんです?」

ええ、箱の中に入っているだけでいいんです。さて、箱を閉めましょう。客席の皆様。私が今から3数えて箱を開けると、あら不思議、箱の後藤さんが消えています。見ててくださいね。ワン、ツー…スリー!

後藤さん:「ギャアァ…」

はい、箱を開けると…ほら、跡形もありません。

観客:「ワァアアアアアアアアアアア!」

いやあ、さすが私のマジックですね。すごい大歓声。以上、「消えるマジック」でした〜。




客:「あのー。後藤さんの悲鳴が聞こえてきた気がするのですが…。すいませんが、出してもらえませんか?」

いや、それは無理な注文です。


第二百三十七段 「restart (前編)」

隆君?久しぶりー!」

下の名前で呼んでくれた。何ともいえない安堵感。それと共に、別の類の感動…みたいなものがこみ上げて来た。紛れも無く、響子の声。

「おう。」

少し照れながらそれだけ言って、振り返った先には、かつての恋人―――響子がいた。キャミソールの上に薄手のジャケット。下はハーフパンツ。自分の知っている響子とは別人。何ともいえない歯がゆい思いをこらえる。

「あははっ、あまり変わってないね。」

軽く首を縦に振って答えた。この3年間、自分は恋愛をすることができなかった。ずっと響子のことが片隅にあったから。いや、そんなこと恥ずかしくて言えない。こみ上げてくる気持ちを押さえ、目も合わさずに早口にこう言った。

「喫茶店、行こうか?」

「うん。あ、私『precious cafe』の割引券持ってた!そこに行こ、隆君。」

「おう。」

そう答え、響子の後に続いた。ふと、左手の薬指に指輪が光るのを見つけた。歯がゆい思いがまた強くなった。

人ごみの中で響子を見失わないように、後に続いた。いや、昔ならばそんなことはありえなかった。自分の右手で響子の小さな左手をずっと握っていたから。もやもやした気持ちのまま、気がつけば喫茶店に着いていた。

「2名です。」

全く知らない店だったが、割引券を持っていたということは、響子はここに来たことがあるのだろうか。誰と来ていたんだろう?店の奥の喫煙席を選ぼうとしたのを見て

「あ、ゴメン、禁煙席で…」

「あ、そうだったね。ゴメンゴメン!」

自分の知ってる響子はタバコを吸わない。席についてから、たまらず響子に尋ねた。

「もしかして…」

「いや、私は吸わないよ。間違えちゃった。」

「私は」―――身を焼かれる思いになった。いや、響子を呼びつける前から分かっていたことなんだ。何を期待していたんだろう。こういう状況に持っていった自分を褒めたくなった。

「ブラックコーヒー、ホットで1つ。」

「私は…同じのもうひとつ。」

小さな安心感が自分を少し満たしていくのが分かった。その後、少しの沈黙が続いた。途端に縮こまってしまい、自分からは何も言い出せなかった。響子から他愛も無い話題が出て、うわついた気分でその話に多少ぎこちなく答えた。

「コーヒーお持ちしました。」

「ありがとうございます。」

響子だけが店員にそう言った。自分は無口のまま、明らかに口に合わないコーヒーを含んだ。熱い!そういや5月下旬というのにどうしてホット頼んでるんだろう。その苦さと暑さの混じった刺激のおかげで、少し落ち着いた。




コーヒーを半ば飲み終えたところで、ずっと気になっていたことを聞くことにした。3年前に自分の若さゆえに響子と別れた。その後、響子の噂を何度か耳にしたが、どうにも解釈できる、あやふやな噂ばかり。しかし、今日の響子を見ていたら、嫌な想像は現実である、そう思わせるのに十分だった。しかし、そのために響子を呼びつけたんだ。緊張というよりは、全く別の知らない感情に包まれながら、自分の口で核心を―――

「し、幸せにやってる?」

そう言うのが精一杯だった。

後編(第二百三十八段)に続く


第二百三十八段 「restart (後編)」

restart・前編(第二百三十七段)

核心を言ってしまった。限りなく後ろ向きな姿勢丸出しの――自分の願望とは正反対の事実を肯定する、その言葉を。

「…うん。来月、結婚するの。」

都合のいい願望は、予想外の速さで幕を閉じた。そして、一緒にコーヒーを飲んで、話題を投げ合った半時間の間に、やけに肯定的になっていた自分の存在に、気がついた。

「そ、そうか。」

そう言いながら、徐々に顔が下向き加減になった。噂が事実だと分かっただけ。覚悟はできていたはずなのに、信じられない、はがゆい気持ちが体の奥底から湧き上がってくる。

博幸さんっていう、2歳年上の会社の先輩なの。優しい人で、仕事もできて、でも一番私が惹かれたのは―――」

響子が話すのを上の空で聞きながら、唾を飲み込んだ。

「自分を曲げない性格かな。ぐいぐいっと私を導いてくれる人なの。博幸さんと付き合いだしてから、すごく自分に自信が持てるようになったんだ。」

さっきまでの無邪気な響子はそこにはいなかった。落ち着きの中に強い意志を秘めている…響子の話に出てきた博幸って人もそういう人なのだろう。

しかし、博幸という人を素直に認めたくない自分がそこにいた。全ての面において、男として今の自分との差は歴然。自分を見つめなおし、優れているところを持ち出して…そんなことを考えて、目の前の響子がトイレに行くために席を立ったのにも気づかず、行き場の無い妄想を頭の中に駆け巡らせていた。

「あ…。」

次に自分を支配したのは罪悪感。目の前の飲みかけのブラックコーヒーよりもずっと苦い思いに苛まれた。冷めかけているコーヒーを八部ほどまで飲んだ。スプーンに頼らなくとも飲める程度の熱さと、やっぱり自分の苦さよりは位の落ちる苦さで、少し落ち着いた…気分になった。響子が戻ってくるのが少しだけ待ち遠しかった。それは、さっきまでの妄想に似た気分とは別の、少し純粋な気持ちであったと思う。

「ただいま。」

「おっ、お帰り。」

軽く呼吸をしてから、落ち着いてコーヒーを口に運ぶ響子の口元を見ていると、自分と響子の距離がますます離れていく気がした。自分はこの場にいてはいけない人間なんだと思い始めていた。

その後、他愛も無い話を少ししたが、かみ合わない――さっきはぎごちなさの中にも昔の響子が見て取れたのに、今は違う。溝は確実に深くなっていた。来月結婚すると知ったときとはまた別の、やりきれない気分になっていた。暫くの沈黙の後、決めた。

「ゴメン、帰るわ。」

すっかりくたびれたことが分かる口調でそう言った。千円札を机に置き、席を立った。

「今日はホント、ゴメンな。俺のワガママで付き合わせてしまって…」

「ううん。今日はに遭えて、本当に楽しかったよ。ゴメンね、期待に添えられなかったかな?」

「いや、俺の期待が無茶だっただけ。本当、感謝してる。」

「今の自分があるのも、隆君と一緒にいた4年間のおかげだから。でも、今日隆君と話していると…こんなこと言うとあれなんだけど…昔には戻れないんだなって思った。私は、変わってしまったわ。本当に、ゴメン。」

さっきまでの自分だったら耐えられなかった言葉かもしれない。しかし、今の自分は響子の言葉を冷静に受け止めていた。

隆君は昔の自分を忘れずに持ってて、今の私にはまぶし過ぎるよ。これからだから…うん、頑張って。けほっ、が…頑張って。」

「ああ…ありがとう…」

喫茶店の入り口で少し振り返って、両手で顔を塞いでいる響子を見た。それをどうすることもできずに、自分もまた瞼を熱くしながら、喫茶店を出た。




その日一晩、ベッドの中で考え事をしていた。最後の響子の言葉はフォロー以外の何物でも無かったな。そして、幸せのゴールを目前に控えた響子に無駄に辛い思いをさせちゃったなと罪悪感に囚われもしながら、気の済むまで響子との思い出を頭の中で駆け巡らせ、整理した。

―――響子のことを考えるのはこれ限りにしよう。そう考えても無理だということは分かっていたけれど、今までとは違う。響子はもう、自分の元に戻ってこない。




気がつくと、まぶしい朝日が窓から差し込んできた。心なしか、いつもより優しい光に感じた。気のせいかもしれないけれど、再出発・restartのラインに自分はいる。そんな手ごたえを感じた、5月最後の月曜日だった。

− restart・完 −

restart・前編(第二百三十七段)


第二百三十九段 「DJ.Ken's Hottime FINAL(前編)」

DJ.Ken's Hottime act.17はこちら

「春はニンジン全開、でっかくHottime!と行きたいところですが…とうとうこの日が来てしまいましたぞチクショー!今日で最終回、DJ Ken's Hottime!今回はファックスで番組への思い出、そして私DJ.Kenへ贈るメッセージを募集します。番組の間随時募集しますので、どしどし応募してください。

それでは最終回企画一発目、久々にゲストをお呼びしています。今をときめくIT業界の大社長・クツエモンこと屈江(くつえ) 文貴さんです。」

屈江:「コホン。屈江 文貴です。正体は30過ぎのただのオッサンなのでそこんとこヨロシク。ところでKen君よ。この番組が終わる理由は知っているかな?」

「いえ、聞いてないですけど。こないだの『100通お便りが来なかったら打ち切り』とかですか?」

屈江:「そんなもんはリスナーのお便り稼ぐための出任せに決まっとるだろうが。実際にはこの番組毎回1桁のお便りだったくせに。即打・ち・切・りじゃん♪一般市民に危機感を煽っておいて、はぐらかして無かったことにする。大人ってずるいよね!」

ちょっとちょっと!番組の裏事情明かしてどうするんすか?大きな声じゃ言えないっすけど。

屈江:「それはそうと、この放送局があまりにつまらんからの、ワシが株を100%保有して放送局の構造改革をすることにしたのよ。こんなつまらん番組は終了!しゅうーりょうー!、!ってわけだ。次回からこの時間は

『屈江大社長のIT教育予備校』の時間どぇーす!

すばらしぃー!」

「公共電波に乗せてどえらいこと言いますね、アンタ。で、他にはどういう構造改革を予定しているんですか?」

屈江:「そりゃもう、屈江大社長のオンパレードさ。『屈江大社長の30分クッキング』『屈江大社長のベストヒット1000曲垂れ流し』『屈江大社長のクツエモン協賛競馬中継』『屈江大社長の言いたい放題』と他にもいろいろ…」

「ワンマン放送局かよ!でも、最後のだけはぴったり来るわ。こんなヤツの謀略で番組が終わるなんて…ちくしょうっ!」

屈江:「株の力は最強なのだよKen君。さて、最終回のお便りを読んでいこうか。ハンドルネーム『セレブ目指す30代』さん。『屈江大社長素敵ぃーっ!』うわあ、感激だなあ、しかも人妻だってよこの人。写真付きじゃない。禁断の愛に走り出しそうだなボク。」

「番組が、番組が乗っ取られる。最終回だってのに。このままで終わってたまるか!次のお便りよこせっ!ハンドルネームはありません、匿名希望さんのお便り。『屈江社長こんにちは。僕、ワイフドアの社員です。』」

屈江:「僕って男かよ。ていうか、うちの社員?」

「えーと、『我々はもう我慢なりません。株を買占めて放送曲乗っ取りという、屈江社長の横暴なやり方を許せません。ていうか、TV、ラジオメディアはいずれITに潰されるとか抜かして放送局を1曲ずつ乗っ取って行くつもりなんだろ?だから、ストだ!季節外れの春闘を起こしてやる!覚悟しろ!』」

屈江:「嘘だ!何、携帯電話が鳴ってる。『何、もう社員全員でストに入った?そ、そんなバカな!』くそっ、こんなはずでは…」

― し ば ら く お 待 ち く だ さ い ―

「やりました!これで次回からも番組を続けられます。え、ディレクター?屈江社長は退いたけど、この番組は元々打ち切りの予定だった?なんやそれ!予定通り、CMを挟んで最終回・後編行きます。ちくしょぉおお…」

DJ.Ken's Hottime FINAL(後編)へ


第二百四十段 「DJ.Ken's Hottime FINAL(後編)」

DJ.Ken's Hottime FINAL(前編)はこちら

(CM) ポンポンポンポンポップマン(新番組!)
ポンポンポンポンポップマン(最先端のJ-POP!)
ポンポンポンポンポップマン(最初のゲストはアンガーグラフ!)
新番組ポップマン!
リクエストしてくれよぉ〜!

「DJ.Ken's Hottime最終回、後半はお便りを読んでいきましょう。ファックスは引き続き募集中ですので、最終回だと今知った方も激励の言葉など戴けるとありがたいです。

まずは通常のお便りから。ハンドルネーム『ご利用は計画的に』さんのお便り。『Kenさんこんにちは。最近、テレビとかでセレブって言葉をよく耳にしますが、これってどういう意味か分かりますでしょうか?妻に聞いてみたら、笑われて、結局何も教えてくれませんでした。博識のKenさんなら分かると思うのですが…』

分かりません!いや、要するに気品の漂った婦人のことをセレブって言うんですよね?え、ディレクター、違う?あ、そういう意味もあるけど、本来の意味は『celebrity(セレブリティ)』の略で、著名人や有名人のことを指すようです。それが派生して、海外の有名女優、有名なモデルさんのことをセレブと呼ぶようになったと。最近のセレブは、お金持ちになることやブランド品を身につけることを『セレブになる』とも言うらしいです。勉強になったような、時間を無駄にしたような。次行きます。

ハンドルネーム『ラッキーパパ』さんのお便り。『Kenさん、このばんぐみは、とてもおもしろいので、これからも、すえながく、ばんぐみをつづけてください。』

ベリ!バリ!いや、すんません。本当なら破るべき手紙じゃないんですが。励みになるお便りだったんでしょうが。今回が最終回なもので、なんか、やりきれなくて、つい魔が差してしまいました。

ファックス、来ませんね。いや、本当なら最終回特集としてファックスを読み進めていくつもりだったのに、あ、来ました!1枚だけ、読みます。ハンドルネーム『カフェ優先主義』さん―――まさか。『今日、折角楽しみにしてたのに、清原が500本塁打打てませんでした。責任取ってください。』全然激励じゃないっ!こういうファックスこそベリ!バリ!

ええ?これで終わり?ああ、最後のファックスを破いてしまうという前代未聞のラストになってしまいました。あ、もう一枚『カフェ優先主義』からのファックスが。『それでこそKenだ。がんばれ。』…。あ、ありがとう。

時間が本当にありません。2001年開始から4年以上もの間、『DJ.Ken's Hottime』を続けられて本当に楽しかったです!ありがとうございました!最終回は、私DJ.Kenのデビュー作『あんなときも?』でお別れです!またいつの日か新企画で遭えたらお会いしましょう!それでは see you someday!

『あんなときも?』 作詞作曲:DJ.Ken

ボルトナット工具が 思うより役立たない?
時々使わなきゃ ボロボロ錆びてしまうよ
旅立つ僕の横に 誓ったあの客は
ものすごいイビキを 立てて僕に寄りかかる

あのスキだらけのストーカーじゃ 追いつけないのは
隣のお姉さんじゃなく 僕かもしれないけど(えっ?)

あんなときも? こんなときも? 僕が僕らしくあるために
パロディネタは好きと 言える気持ち 抱きしめてたい
そんなときも? 明智小五郎! 迷い探し続ける日々が
答えになること 僕は知ってるから

第1回・DJ.Ken's Hottime act.1はこちらです。


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